自業自得ではあるんだろうけど・・・


今年も残すところあと僅か

今年一年を振り返ってみると、個人的には特筆すべき事柄が特にない一年でした。
強いてあげるなら今月の初旬にプライベート上の事情で2週間ほど東京に住んでいたことくらいでしょうか。
しかし、「特筆すべき事柄が特にない」事がむしろ一番幸せなのかも知れないとつくづく思います。
新聞やニュースの報道を見ていると悲喜こもごも。
中には新年を曇った表情で迎える人もいるようです。

昨日付けの朝日新聞に掲載されていた記事より・・・。

寒空の下でテントを張って野宿しているひとりの男性。

彼の名前は前橋靖氏。

41歳妻子あり

彼はかつて「エムクルー」という派遣会社の社長として一躍脚光を浴びた人物でした。

一介の派遣会社の社長でありながら脚光を浴びた理由は二つ。

ひとつは、「社会的企業」であることを強調していた点。
ニートやフリーターに救済の手を差し伸べ、社会で活躍する為のサポートをする事を謳い文句にしていたのです。
登録スタッフを「クルー(乗組員)」と呼び、自社が経営しているレストハウスを住居として提供することで社会的企業であることを強調していたのです。
もうひとつの理由は、元ホームレスという前橋氏の異色の経歴。
ホームレス時代に日雇い飯場で働いていた際に人材確保(早い話が手配師のことね)を任されていた事が後の「エムクルー」のルーツになったそうです。
やがて「エムクルー」はモバイトドットコム(事業廃止)に次ぐ代表的なスポット派遣会社となり、より脚光を浴びた前橋氏は、竹中平蔵氏から奨励され、出演依頼に公演依頼が連日殺到、著書も2冊上梓。前橋氏の著書である「僕、路上系社長」は話題になったそうです。
こうして「エムクルー」は着実に業績を伸ばし、前橋氏は一躍時の人となったのです。

しかし、「エムクルー」には知られざる素顔がありました。

それは社会的企業の名を借りた貧困ビジネスそのものだったという素顔。

法外な中間搾取に、レストハウスとは名ばかりのお粗末なたこ部屋に住まわす有様。
粗末な部屋に住まわせておきながら高額な住居費を天引きするのですから、これでは貯金どころかまともな住居に住めるわけがありません。
バッドウィルがデータ装備費と称して200円を徴収していたのに対し、「エムクルー」は福利厚生費と称してバッドウィルの2.5倍も天引きしていたのです。
かつては自身もホームレスだったはずの前橋氏社会的弱者の味方であるとキレイ事をならべてみても、権力を手にした時点で既に心が腐ってしまったのでしょう。
強き者には弱く弱き者には強いという態度が物語っています。
これだけの違法行為をしているにもかかわらず、世間は「エムクルー」の正体に気づかなかったのです。

しかし、中には「エムクルー」の悪辣さに早くから気づいていた者もいました。

反貧困ネットワーク・もやい代表 湯浅誠氏

早くから「エムクルー」の問題点に気づいていた彼は、エムクルーユニオンを立ち上げるべく、もやいスタッフと共に「エムクルー」に潜入調査を行ったのです。
潜入調査の目的はふたつ。
ひとつは「エムクルー」の実態を確認する為
もうひとつは、ユニオンを立ち上げる為にスタッフとして就業したという既成事実を作る為

湯浅氏はもやいスタッフと共に「エムクルー」のスタッフとして1日だけ工事現場で就業しました。
そもそも工事現場での派遣就業自体違法なのですが。
杜撰なスタッフ管理法外な中間搾取質の悪い住居どれも噂に違わぬものでした。
潜入調査を終えた湯浅氏はさっそくエムクルーユニオンを立ち上げ、行動に移しました。
今まで500円も天引きしていた「福利厚生費」の返還を求めたのです。
しかし、前橋氏の態度はユニオンの交渉に応じるどころか社長室に篭城するという最悪なものでした。
湯浅氏の行動は「エムクルー」の素顔を社会に暴露するきっかけになり、時期を同じくして派遣問題が社会でようやく浮上しはじめた頃、「エムクルー」の悪辣さはたちまち世間の知るところとなったのです。
やがてレストハウスは閉鎖を余儀なくされ(2009年09月閉鎖)、社会的信用を失ったエムクルーはほぼ倒産状態(注:倒産の根拠については後述)。

そして今・・・

前述の朝日新聞の記事にあるように妻子を自宅に残し、ひとり寂しく寒空の下でテントを張って野宿する生活。
年商14億円から一転、ホームレスに逆戻りしてしまったのです
。現在の彼は、数億円の負債を整理しながら職探しをしているとのこと。
時々、車中生活をしているという彼は未だベンツを手放さずにいるという。
ベンツを手放さずにいるのは彼の残されたプライドを象徴しているようにも思える。
当時を振り返り、彼はこうコメントする。

「そもそも無職者に仕事を紹介してなにが悪いのかと思っていた」

福利厚生費と称した法外な天引きの使途について、彼は次のようにコメントしていた。

「利用者がくつろげるように大量のマンガを購入し、共用の施設費に使った」

そもそも普段からバラバラな派遣スタッフがどうやって共用施設を利用するというのだろうか・・・今となっては共用施設の存在そのものが怪しい。
共用施設の為であるというならどうして団体交渉の際に交渉を拒否し社長室に篭城した?
突っ込みどころのあるコメントだった。
湯浅氏もこうコメントしていた。
「エムクルーに法令順守の意識は全くなかった。ただ、前橋氏自身も法令順守に疎い環境でしか働いたことがないので前橋氏が全て悪いわけではない。今の社会全体の問題として捉えるべきだ」と。
前橋氏のコメントを見る限りでは、湯浅氏への恨みは特に感じられなかったが、言葉の端々に水と油の関係であると思わせる発言が目立ったように思える。
もしも、前橋氏がまた息を吹き返す事があるのなら、初心を忘れてはいけないと言いたい。
初心を忘れた時点で心が腐ってしまうんです。

追記)湯浅氏のエムクルー潜入調査、エムクルーの実態などについては、湯浅氏の著書「反貧困」に詳しいです。
このブログでも何度か話題に出している本でもあり、今でも繰り返し繰り返し読み続けています。